ヨーロッパの宮廷舞踏曲

講師: 市瀬陽子

(市瀬陽子)

ルネサンスからバロック期にかけて、舞踏曲は宮廷でどのように親しまれていたのでしょうか。今回は、ルネサンスダンスの中からブランル(Branles)、パヴァーヌ(Pavane)、ガイヤール(Gaillarde)。そして、バロックダンスからガヴォット(Gavotto)とメヌエット(Menuet)をレクチャーしていただきました。

ヨーロッパの音楽には踊りの伴奏として使われた曲がたくさんありますが、「演奏会用に作曲されるようになると形態がかなり変化した」ということが解説書等に書いてあります。実際、バッハのガヴォットやメヌエットなど演奏したり聴いたりしても、踊りの曲であると意識していないことがあります。踊りのステップを教えていただき、リズムを実際に体で感じながら舞踏曲を全身で楽しむことができました。以下、特に印象に残った点について、簡単にまとめてみます。

♪ルネサンス時代

ブランル(Branles)は、カップル全員が手をつないで輪になったり、鎖のようにつながったりしてステップを踏みながら時計回りに進んでいく2拍子系の踊り。基本のステップを組み合わせて「進んでは戻り」を繰り返して進みます。 また、これらのステップに「片脚を少し振り上げる」「飛び跳ねる」などの動きをつけて踊ります。

1588年に出版された舞踏書「オルケソグラフィー」には21のブランルが紹介されており、楽譜にステップの説明がそえられているそうです。この本は現在アメリカで販売されていますので、ぜひ購入して当時の音楽と舞踏を再現してみたいものです。

ブランルの中には小道具を使って楽しむものもあったようで、例えば「燭台のブランル」は、ほのかな明かりの中、燭台を手にした男性が女性を物色し、「これは!」と思う女性と一節踊っては順次燭台を受け渡していくという形式。そういえば、ハンガリーに旅行したとき、枕を同じように順次受け渡していく踊りをやったことがあります。地方によって様々な特色があるのかもしれません。

元もとブランルは民衆の間で特に「野外の楽しみ」として流行した踊りだったそうです。やがて宮廷の舞踏会に採り入れられ、特にフランスの宮廷では、いくつかのブランルを組み合わせて組曲のようにして踊られたほど流行しました。また、イギリスのジェームズI世の舞踏会は「ガイヤルド、ブランル、ブランル、ガイヤルド、ブランル、クーラント」で構成されたと記録に残っているとか。ヴァリエーション豊かな曲の数々は、音楽の面からもパヴァーヌ(Pavane)などと並び、ルネサンス音楽の舞曲の時代を開いたとのことです。

ガイヤルド(Gaillarde)は、6拍を一単位とする跳躍を伴った3拍子系の踊り。6拍のうち4拍めで大きく跳躍するもので、「タン、タン、タン、ターン、タン」というリズム。脚を蹴り上げて跳ぶ姿が美しい人ほど女性からモテたのだとか。 少し前に読んだ服飾史の本にも書いてあったのですが、この時代の男性はズボンのように脚全体が隠れるものではなく、ミニスカートのように脚線美を見せるタイプのものを身に付けていたそうです。と、いうことは、せっせと脛毛を剃っていたのでしょうかね。あ、タイツをはいていたんですね。

(ダンス)

♪バロック時代

この時代に足の置き方で5つのポジションが確立し、これが現代でも踊りの基本になっているのだそうです。

メヌエット(Menuet)は3拍子の曲ですが、踊りでは2小節分の6拍を単位とし、その1拍と3拍で大きな動き(アクセント)があります。 メヌエットと名のつく曲はたくさんありますが、このようなリズム感覚で聴いたり演奏したりしたことはなかったので、意外な感じがしました。


♪宮廷楽士もどき

当時の雰囲気を出すため、この日の舞踏曲は古楽器で生演奏。 リコーダー、ヴァイオリン、プサルテリー、アイリッシュハープ、タボレットなどで演奏しました。

16世紀から17、8世紀といえばレコードもない時代のことですから、こういう楽隊が実際に活躍したわけです。宮廷楽士の気分も味わうことができ、楽しいひとときでした。