ハープについてのお話と演奏

*** 日本ハープ協会の皆様 ***

今回は日本ハープ協会の皆様のご協力により、村岡和夫氏の司会進行で様々なめずらしいハープを見せていただきながらのお話と演奏で、ハープの魅力を存分に楽しませていただきました。

1 ハープについて 林高裕氏

200種類あるいは、それ以上あるといわれているハープは、歴史的に一番古い楽器と思われます。一万年前のメソポタミアで、すでに生まれていたという説もありますが、前3000〜5000年にエジプトとシュメール地方で知られていたと言われています。ハープは弓型、鋭角型、枠型の三つの基本型がありますが、その時代のハープは鋭角型と弓型ハープでした。枠型ハープは中世のヨーロッパで発展し、最も初期のものは小さくて武骨な形でしたが次第に改良されて演奏面でいろいろな表現ができるようになりました。エジプトのハープについては、古代エジプトのいろいろな壁画に描かれており、その形を知ることができます。
18世紀ごろになると、エラールが足ペダルを開発し、現在、オーケストラにつかわれる源をつくりました。ヨーロッパの音楽ではハープは人の心を惑わせるということで阻害されたこともあって、他の楽器のように発展することはなかったようです。
民族ハープは世界の全く違う地域で全く違う演奏をしていたという不思議な楽器です。
ボルネオの箱型の共鳴胴をもつもの、共鳴胴を身体につけて演奏するガボン、スーダン、ザイール、ビルマなどのしゃもじ型ハープ、ひょうたんの共鳴胴をもつリベリアのロマハープなど、たくさんの種類のハープがあります。フランスにおいては、マリーアントワネットがハープを愛好していたこともあり、現在もアイルランド、スコットランドで多く演奏されていて現在に続いています。
ハープの世界についてはまだまだ知らないことはたくさんあると思いますが、非常に古い楽器であり長い間時間をかけて世界中に伝わってきた歴史のある音色の美しい楽器であるということが言えると思います。

2 お話と演奏

(1) 歴史的ハープ

中世、ルネッサンス、バロックハープ …木田智之氏

<演奏曲>

中世、ルネッサンス、バロックハープ 木田智之氏 リコーダー、歌 和田千衣美氏

Fifth Estampie Royal(13世紀 仏) 中世ハープ、リコーダー
Virelai''Douce Dame Jolie''(14世紀 仏) 中世ハープ
ConsortIX〜HenryVIII's Manuscript〜(16世紀 英) ルネッサンスハープ
Voce sola''Nigra sum''〜Vespro della Beata Vergine(16〜7世紀 伊) バロックハープ、歌
Aria di Passagaglis''Cosi mi disprezzate?''(16〜7世紀 伊) バロックハープ、歌
使用楽器の説明

中世ハープ・・・西暦800年頃に現在のスコットランドで使用されていたハープ、ピクティシュ・ローズマーキーのレプリカで、高さは80cm程。中世のハープとしてはサウンドボックスが比較的に大きくネック、フォアピラーがストレートなのが特徴です。指を立てて弾くと半音が弾きにくいのでたまご型にして弾きます。

ルネッサンスハープ・・・ルネッサンス期の音楽家ホルバインのハープをホブロウが復活させたもの、ホルバインモデル。プレイピン付きで、弦に軽く接触させてビンビンとした音色に変化をつけることが出来ます。これにより、音を強調させました。
ネックの幅を広くとってフレット代わりにして押さえ、擬似的な半音階が可能となっています。
音量的には、サウンドボックスが薄いこともあり、控えめになっています。

バロックハープ・・・音楽理論家ヴィンツェンツォ・ガリレイの設計による複弦ハープをホブロウが復活させたもの、ガリレオモデルで、高さは1.5mと大型です。
サウンドボックス部分はリュートなどと同様に短冊板の張り合わせで出来ています。
弦が2列に張られており全音弦の間から指を通して半音弦を弾くため、奏法が難しい。

シングルアクションハープ …神藤雅子氏

<演奏曲>
プレリュード ヘンデル
オルフェの竪琴 19世紀
ラルゲット 18世紀後半のハープのための曲

ダブルハープ、トリプルハープのできた時代の背景として、演奏の曲の広がりに半音を必要としたことが上げられます。唄から始まった音楽が器楽曲としての音楽として独立していく時代になってきまして、伴奏用だったものが独奏用としてついていかなければならなくなったのです。トリプルハープは300弦もあり、弦が多いことで技術的に追いつかないこともあり半音を考えだしたのがペダルハープです。18世紀中ごろからペダル付きハープが考えだされて、ずいぶん製作されるようになりました。その後、マリーアントワネットが愛好していたことでフランスで流行し、貴族子女の教養としてずいぶん盛んになったようです。しかし、フランス、市民革命による時代的背景もあり、貴族の象徴としてのハープだったために、その当時のハープはずいぶん破壊されてしまいました。
今日使用の楽器は220〜230年前の楽器で、共鳴胴には初め絵が描かれていました。マリーアントワネットと同じナーデルマン製作のハープです。共鳴胴に穴はなく、一つの音に一つのペダル、7本のペダルがあります。シングルアクションは半音上げることはできますが半音下げることはできません。この時代はサロンコンサートが主流でしたが、18世紀後半ごろから次第に大きなコンサートホールで演奏するようになったことで、ハープの外観はさほど変わってはいませんが、ハープ大きさ、板の厚さ、共鳴胴の穴の変化により音色的にはずいぶん変わっていきました。

(2) 民族ハープ

ケルトのハープ …菊地恵子氏

<演奏曲>

こもりうた
ロビン・アドゥール
カロランズ・ウェルカム
ロンドンデリー

ケルトの国のハープはアイルランド、スコットランド、ウェールズ、マン島などその国によって名前が変わりますが内容的には変わりがありません。
アイルランドの曲は大きく分けて、悲しみの曲、喜びの曲、こもりうたに分けられます。15、16世紀のアイルランドのハープ、ブライアンボルーハープは、柳でできており、ボールペンで書いたように薄い彫刻があります。現在のハープはナイロン弦やガット弦で指先で奏でますが、このハープは金属弦をつかっていて爪ではじき、たいへんがっちりした素朴な感じのするハープです。このハープは、現在のアイルランドの紋章になっています。同世紀のスコットランドのハープでは、クィーンメリーハープとラモントハープがあり、クィーンメリーハープはその名のとおり女王が使ったハープで彫刻がはっきりしていて宝石がちりばめられていたようです。
アイルランドのハープ音楽で重要なのが、スルーロー・カロランです。盲目のハーパーカロランの残したハープ曲は200を越えています。また、1792年に伝統的な音楽が失われる恐れがあるということで開かれたのがベルファーストハーパーズフェスティバル。このときに音楽を書くために雇われたオルガン奏者のエドワードバンティングは、それを機にたくさんのハープの曲を書き残しました。現在のハープが残る立て役者ともいえます。
古代ケルトでは約100年もの間アイリィシュハープの音楽は全くなくなりました。古代ケルトの社会では王に雇われていたハーパーは高い位におりましたが、戦争により職を失い、ハープを弾く人がいなくなると同時にアイリッシュハープの曲が全くなくなってしまいました。ですから、現在のアイリッシュハープはその時代の後のハープであり、ネオアイリッシュハープと呼ぶのが正式な名前といえます。

アイリッシュハープ …西山寛子氏

<演奏曲>
アイリッシュハープ 西山寛子氏、オーボエ 宮城幸枝
ロンドンデリー アイリッシュハープ、オーボエ
イングランド グリンスリーブス アイリッシュハープ
カロラン コンチェルト アイリッシュハープ、オーボエ

この楽器では、半音操作では半音上げられるが半音下げることができないので、調弦をやりなおさなければ弾けないということがあり不便なこともあります。また、移弦の操作をしながらの演奏は早いテンポの曲には大変むずかしく、弦の張力があまりないので音が出にくく強弱がつきにくい楽器です。しかし、現在のグランドハープとはちがった音色の良さがあるのが魅力です。演奏でオーボエと相性がよいとされる理由には、オーボエの祖先はバグパイプと言われているということで音色がよく似ていることがあります。今回は、バグパイプ風の音色に調整したリードをつけて演奏されました。

パラグアイハープ …桜井浩子氏

<演奏曲>
青い空
別れ
コーヒールンバ

ハープは、スペイン語では、HARPAのHを発音しないためARPA (アルパ) と呼びます。
アルパの歴史については、スペイン人がインカ帝国を征服した後、アンデスにもたらした楽器の原型になっているといわれています。カトリック宣教師たちがアンデス各地に教会を建て、バイオリン、マンドリンとともに教会音楽として奏で広まったのです。
南米各国のアルパ事情としては、アルゼンチン、エクアドル、コロンビア、チリではあまり普及していません。メキシコでは独特のリズムで演奏されたり、ペルーでは逆さまにかついで演奏されるお祭りもあり、ベネズエラでもアルパはかかせない楽器としてあります。パラグアイでは、国民楽器として他の国に差をつけ、アルパパラグアージャ と呼んでいます。これは、見た目も美しく完成度が高い楽器です。 パラグアイで演奏される曲はほとんどがポルカで、左手で三拍子右手で四拍子のリズムを弾き、立って演奏することが多いのが特徴です。


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